入職6ヶ月のA生活支援員が言いました。
「利用者Bさんは私の言う事を聞いてくれないから苦手です」
利用者Bさんは自閉症スペクトラム障害と知的障害のある利用者さんです。
“こだわり”の一つに好きな支援員や関わりの深い支援員の声掛け以外は届きにくい特性がある方です。
A支援員が苦手とする理由は、利用者Bさんが事務室にいる経理職員がお気に入りで休憩時間の度に事務室へ向かいますが、休憩時間が過ぎても作業室に戻ってくれないことが要因の一つです。
「Bさんが戻ってこないので、私が事務室まで迎えに行きます。でも、私の声が届かないので・・・苦痛の時間です」
A支援員が抱えた「苦手意識」の背景
気持ちはわかる。
作業グループのリーダー支援員からは「出来るだけ利用者は事務室に入らないように」と言われており、休憩時間の終わりに事務所に迎えに来ても利用者には声が届かない・・・
事務所にいる職員は「Bさんの対応は事務所でも協力するよ」とリーダー支援員に声をかけても、利用者Bを作業室に戻るという結果が出せないA支援員は板挟み状態です。
結果、冒頭の発言につながったという訳です。
利用者の“世界”に入るために必要な視点
利用者の“世界”の一人になるには
利用者に寄り添う事は大切です。
時間をかければ自然と信頼関係がうまれて“利用者の世界の一人”として認識してもらえます。
そうすれば、利用者から頼られたり、支援員の声かけが届く様になったりと良好な関係が築ける場合が多い事からも“時間をかけて寄り添う”事は大切です。
しかし、それだけで良いのでしょうか?
出来れば、支援員から利用者にアクションを起こし、利用者が望む心地よい距離を探してほしいと思います。
利用者さんの興味関心のある事柄、声のトーン、立ち位置など・・
観察で得られた情報をもとに“あーでもない、こーでもない”とかかわり続けてほしいです。
そうすれば、何がきっかけなのか実感は無くとも利用者との関係性に変化がうまれ、声が届くようになったり利用者から関わりを求めてくれたりと“支援の第一歩”にたどりつけると考えます。
A支援員に行った「手順と役割の明確化」というシンプルな対応
とは言いつつも、「利用者と関わる」事から距離をとる支援員にどう向き合わせるべきか。
“そもそも適性が無い”
“だからZ世代は・・・”
は置いておいて、A支援員に対して行った対応はいたってシンプル。
「情報を整理して、対応の手順と役割を決める」
口で説明されてもイメージできない事も、手順と役割を決めれば関わるきっかけは作れると思い、実践です。
H2:利用者Bさんの特性整理と、対応して見えてきた変化
まず整理したのは・・・
・休憩時間に利用者が事務室に来ることは悪い事じゃない。
・B利用者が作業室に戻る為の対応は事務室職員もサポートするけど、支援員は対応を丸投げしない。
を周知しました。
リーダー支援員の「出来るだけ利用者は事務室に入らないように」という配慮への「入ってもOKだよ。気を使ってくれてありがとう」という返答です。
次に利用者Bさんの情報を整理しました。
今わかっている情報と対応してわかった情報の整理です。
・事務所に来る目的は経理職員と関わりたいから。
・関わる内容は1分程度の言葉あそび的ルーティン会話
・一通りの関わりが終われば経理職員の声掛けで作業室に戻る。
・経理職員が不在の場合は事務室付近から離れられず、床に寝転んで過ごす。
・寝ころんだ際は起き上がる為の声かけが通る支援員とそうじゃない支援員がはっきりと分かれる。
・経理職員とのやり取りが終われば、支援員の声掛けでも作業室に戻れるようになった。
・経理職員が不在の場合は不在の理由と次会える日時を伝えると事務室を自分から出る事が出来た。
声かけの工夫で生まれた支援の変化
利用者Bさんの言語理解力は高いにも関わらずA支援員は吐き捨てるように
「今は経理さんいないから」「忙しいから今はお話できない」
といった見通し不明瞭でマイナスな声かけしか行っていませんでした。
「今は経理さんいないけど、明日の〇時にはお話しできるよ」
「経理さんは今忙しいから、〇時の休憩時間に一緒に会いに行こう」
と言った声掛けに変えるよう指示しただけで、利用者Bさんの行動は変わりました。
手順が安心感を生み、関係性の一歩が育まれた
何より苦手意識のあったBさんとA支援員の関わりは経理職員を通じてルーティンとして困難なく日々積み重なる状況が生まれました。
そこには“手順さえ守れば利用者Bさんは作業室に戻ってくれる”と言う安心感があるからこそ、A支援員の行動に変化が生まれたのだと思われます。
この関わりを継続すれば、A支援員と利用者Bさんの間の信頼も育ってくれると期待して見守る事にしました。
支援の本質は“気持ち”と“手順”の両立?
支援の現場では、利用者の特性だけでなく、支援員自身の得意・不得意や不安が、日々の関わりに大きく影響します。
A支援員のように「苦手だ」と感じることは決して悪いことではありません。
むしろ、そこで立ち止まり、情報を整理し、手順と役割を明確にすることで、支援のあり方が大きく変わることがあります。
今回のように“関わり方の見通し”が生まれると、支援員の不安は少しずつ和らぎ、利用者との関係にも小さな変化が生まれます。
その積み重ねこそが、支援員が利用者の“世界”の一人として迎え入れてもらえる基盤になるのだと思います。
支援は“気持ち”だけでは続かず、“手順”だけでも深まらない。
その両方を丁寧に組み合わせながら、利用者と支援員が一緒に歩いていける関係を育てていくことが、私たち福祉の仕事の醍醐味なのかもしれません。
これからも、利用者一人ひとりの“世界”に耳を傾け、支援員それぞれの成長を大切にしながら、より良い支援の形を探していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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