知的障害者支援の仕事を続けていれば誰でも直面するであろう理不尽な保護者の圧力や言動。
近年は“モンスターペアレンツ”や“カスタマーハラスメント”が話題となり、理不尽・高圧的な客や利用者側の要求に対して労働者を守るガイドラインも周知され始めています。
しかし、私の勤務する社会福祉法人の事業所ではここ最近でも・・・
え!?
と言うクレームや対応批判が見受けられます。
その様なケースをいくつか紹介したいと思います。
①てんかん発作は予測できるでしょ?
高頻度で脱力するてんかん発作がある重度知的障害者のAさん。
多動性で興味のある物を見かけると咄嗟に走り出して触れようとされます。
突発的に動いたタイミングで発作が起こる事もしばしば。
生活支援員は基本マンツーマン対応でトラブルや発作による転倒で起こる二次被害を回避すべくサポートしています。
しかし、不意に起こる脱力発作への対応が遅れ、支援員が瞬時に支えながらも“しりもち”状態になる事もあります。
臀部強打等の二次被害が無くても、顛末は保護者に連絡します。
その際にAさんの保護者はこう言いました。
「支援員はプロでしょ?発作の前兆を予測して対応してもらわなければ困ります」
「Aに怖い思いをさせて事を十分に反省して」
一旦は保護者の意見を受け止めて、可能な限り支援体制を整えてサポートする旨を伝えると・・・
「Aは重度障害者で支援費として国から年500万円以上支払われているでしょ?A専属の支援員を雇えるでしょ?」
②妹の人生の責任はとれるの?

毎年冬になればインフルエンザや新型コロナといったウィルスが起因となる感染症が流行し、障害福祉サービス事業所では早期発見や集団感染を防ぐために検温等の体調管理を日に何度も行います。
ある2月の中旬、利用者Aさんが通所後すぐの検温で37.8度の熱がありました。
施設のガイドラインでは37.5度を超える発熱があった場合は帰宅をルール化しています。
そこで、利用者宅へ連絡。
「え?自宅で計ったら37.4度でしたよ?」
「もう少し様子を見てみて」
と母親が不機嫌そうな口調で対応します。
その後、Aさんを医務室対応に切り替えて水分補給・検温の結果、38.5度まで体温は上昇。
体温計を変えて何度検温しても38.5~38.4度の表示。
利用者Aさんの顔は赤く普段に比べて、しんどそうな表情でした。
あらためて自宅に連絡し状況を報告し、お迎えに来ていただきました。
明らかに不機嫌そうに迎えに来た母親と一緒に帰宅したAさん。
その30分後、Aさんの母親から一本の電話がはいりました。
「自宅で検温したら38度も無いわよ!」
「帰らせたかったの!?」
「夕方まで医務室で寝れたでしょ?」
「明日はそうしてもらうから!」
最後に本音の一言
「今週末は妹の高校入試なの!Aの風邪がうつって受験できなくなったら誰が妹の人生の責任をとってくれるの?」
その日の夕方、利用者Aさんの熱は39度を超え、病院での検査の結果インフルエンザA型感染が判明しました。
③お土産はお米10㎏ね。

今でも記憶に新しい、全国的な米不足でスーパー等からお米が消えた頃、事業所の一泊旅行の行き先はお米の産地で有名な県の温泉旅館。
利用者にとって楽しみなお土産購入は初日、旅館、二日目と購入場所を変えて自己選択・自己決定を尊重しています。
保護者からお小遣いをもらったり、毎月支給される工賃を貯めて買い物を楽しむ利用者が多数います。
しかし、意思疎通が困難な利用者もいるのでお土産購入に関する保護者アンケートを実施しています。
アンケート結果の大半は“本人に任せる”や“1000円程度のクッキー”
と言った内容でしたが、中に目を疑うアンケートが・・・
“お米10㎏”
記入した保護者に電話連絡すると以下の様な返答が
「今お米売ってないでしょ?産地ならあると思って」
「買ったらバスに積んでおいてくれていいわよ」
利用者は悪くない事がなんとも・・・
本来の保護者は協力者
上記①~③は同じ保護者さんによる対応です。
福祉の現場は、利用者本人の特性や体調と向き合うだけでなく、その背景にある家族の思い・不安・価値観とも向き合う仕事です。
多くの保護者が誠実に協力してくださる一方で、ごく一部ではありますが、今回紹介したような“理不尽な要求”や“支援者への過度な責任転嫁”に直面することもあります。
現場の支援員はプロである前に人間です。
万能ではありません。
しかし、日々の支援の中で利用者の安全・成長・生活の安定を願い、できる限りの判断と行動を積み重ねています。
にもかかわらず、支援員が萎縮したり、心理的に追い詰められてしまうような圧力が続けば、本来守られるべき利用者の暮らしにも影響が及んでしまいます。
保護者と支援者は、本来は“利用者の生活をより良くする”という同じ目的を持つパートナーのはずです。
感情的な要求や無理難題をぶつける前に、互いの立場や状況に思いを馳せ、対話を重ねられる関係でありたいと願っています。
福祉の仕事が“誰かを責めるための場所”ではなく、“誰かを支えるための場所”として続いていくために。
これらの事例が、現場の声として少しでも理解を広げるきっかけになれば幸いです。


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