令和8年度には、障害福祉サービスにおいて臨時の報酬改定が予定されています。
人材確保と定着が大きな課題となる中で、「処遇改善加算」をどう位置づけ直すのかは、現場にとって極めて重要な論点です。
一方で、現場には見過ごせない現実があります。
処遇改善加算が算定されているにもかかわらず、
非常勤職員や一部の職種では、給与アップにつながっていないケースが少なくないという事実です。
直接支援の現場を支えているのは、必ずしも常勤職員だけではありません。
短時間勤務の支援員、送迎や補助業務を担う職員、現場を下支えする非常勤職員――
そうした存在があってこそ、日々の支援は成り立っています。
処遇改善加算は給与アップの要となるべき
それにもかかわらず、
「処遇改善加算は出ているはずだが、自分の給与は変わらない」
「正規職員だけの話のように感じる」
そんな声が聞かれる現場があるのも、また事実です。
制度が重なり、加算の仕組みが複雑になるほど、
“処遇改善とは誰のためのものなのか”が見えにくくなっている
私はそのような違和感を覚えています。
施設長という立場で日々運営と向き合う中で、私は思います。
処遇改善加算は、単なる報酬上の調整ではなく、
「この現場で、自分は大切にされているのか」
職員一人ひとりがそれを感じ取るための制度であるべきではないかと。
だからこそ今、令和8年度の臨時報酬改定を前に、
処遇改善加算の“使い方そのもの”を、現場の目線で見直す必要がある
そう強く感じています。
書類は整っている。でも実態は見えない
処遇改善加算の使途について、行政への報告は
「処遇改善計画書」と計画期間の加算支給後2か月以内に提出する「実績報告書」が基本です。
数字の整合性が取れていれば、それ以上踏み込んだ確認が行われることは、実際には多くありません。
つまり、
書類上は適正でも、現場で誰にどのように届いているかは見えにくい
という構造が、今の制度にはあります。
その結果、
- 一部の職員にのみ反映される
- 正規職員を中心とした配分になる
- 非常勤職員には実感が届かない
- 賞与に組み込まれ、処遇改善として意識されない
といった状況が生まれやすくなっています。
制度上は違反ではない。
しかし現場感覚としては、
「それは本当に処遇改善なのか?」
という疑問が残ります。
私が考える、処遇改善加算のあるべき使い方
現場と経営、両方を経験してきた立場から、
私は次の条件こそが、処遇改善加算の本来の姿に近いと考えています。
- 全職員に対し、常勤換算数に応じて支給すること
- 給与明細に、明確な個別支給項目として表示すること
- 加算に含めてよい経費は、法定福利費のみとすること
- 一時金ではなく、原則として毎月支給すること
この条件は、決して現場に甘い理想論ではありません。
むしろ、運用する側にとっては非常に厳しい制度設計です。
理由が不明瞭な特定の職員に厚く配分することも
年度末にまとめて帳尻を合わせることも、明確なルールが必要。
しかしその分、
誰に、どれだけ届いているのかが明確になる。
それこそが、処遇改善加算に求められている本質だと思います。
なぜ「非常勤」を含めることが重要なのか

―同一労働同一賃金の視点から―
障害福祉の現場は、非常勤職員なしには成り立ちません。
日中の直接支援、見守り、送迎、補助業務――
多くの場面で、非常勤職員が現場の中核を担っています。
仕事内容だけを見れば、常勤職員と非常勤職員の間に、
本質的な差がないケースも少なくありません。
近年、「同一労働同一賃金」という考え方が社会に浸透してきました。
雇用形態にかかわらず、
同じ内容の仕事、同じ責任を担っているのであれば、
処遇もそれに見合うべきだ
という考え方です。
処遇改善加算は、まさにこの理念を現場で具体化できる制度のはずです。
非常勤か常勤かではなく、
現場に立つ時間、担っている役割、支援の重みに応じて評価する。
常勤換算による配分は、そのための現実的な方法だと考えています。
もし処遇改善が常勤職員中心に設計され続けるなら、
現場には静かな不信感が生まれます。
「自分の仕事は、評価の対象ではないのだろうか」
「非常勤は、いくら頑張っても変わらないのではないか」
こうした感覚は、やがて離職につながり、
結果として現場全体の支援力を下げてしまいます。
令和8年度改定に、現場として期待すること
令和8年度の臨時報酬改定では「報酬をどれだけ上げるか」だけでなく、
「どう使わせるか」まで踏み込んだ制度設計が求められているのではないでしょうか。
- 非常勤職員にも届いているか
- 毎月の処遇改善として実感できているか
- 現場に説明できる仕組みになっているか
処遇改善加算は、
制度そのものが法人の姿勢を映し出す鏡です。
処遇改善は、職員へのメッセージ
処遇改善加算の使い方は、
その法人が職員をどう見ているのかを、言葉以上に雄弁に語ります。
「あなたの働きは、ここで評価されている」
「この現場に、あなたは必要な存在だ」
そのメッセージを、制度を通して伝えられるかどうか。
現役施設長として、私はこれからも、
処遇改善加算を“帳簿の数字”ではなく、
“信頼を積み重ねる仕組み”として扱っていきたい
そう考えています。


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